Index

 
ペイ・フォワード[可能の王国]
監督:ミミ・レダー
2001年2月3日(新宿ピカデリー1)

 退屈なアトラクション



 アメリカに「ディズニーランド化した」と揶揄されているものが二つ、ラスベガスのカジノとハリウッド映画です。何れの場合も、概ね「家族で愉しめる毒にも薬にもならないもの」と言う程度の意味なのだと思うのですが、此処に奇しくもラスベガスを舞台としたハリウッド映画が、世間の評判が余程気に喰わないのか、「ディズニーランド」であることを躍起になって否定しています。

 映画が「夢物語」であってはならないなど、誰が言ったとも思えないのですが、この映画はとにかく、決してそうはならないよう其処に「現実」が過剰に注入されています。私がこの映画に、「アカデミー賞確実」などと云ふ陳腐な謳い文句とは関係なく、それなりの期待を抱いていたのは、この物語にある「善意のネズミ講」という着想が如何にも「映画」と相性の良さそうな、その「運動」を予感させるものだったからに他ならないのですが、しかし、此処に執拗に強調される「現実」がその運動を見事なまでに阻害し、其処に如何にも退屈な訓戒を残しこそすれ、それ自体はまるで機能不全のまま何一つを果たすこともありません。確かに、此処に示された「理想」と「現実」の鬩ぎ合いは、物語をより重く、其処により多くの「言葉」を残すことに貢献しはするものの、しかし、映画はスクリーンと対峙している瞬間、其処に目撃、体験される「運動」こそが肝要なのであり、映画館の帰り道、地下鉄に揺られながら思う「何か」など、所詮はその体験を契機とした各人の「言語活動」に他ならず、勿論、それを軽視するつもりはありませんが、しかし、後者が前者を駆逐するような映画は、やはり何処か歪であると言わざるを得ません。

 そもそもこの映画はその物語構造に欠陥があります。「ネズミ講」の起点を舞台とした物語とその途中の或る地点から起点へと遡行されていく物語、この二重構造自体は実に魅力的なのですが、しかし、後者が逆進する直線なら前者はあくまでも小さな円、前者と後者の「出会い」がこの物語を終わらせるのではなく、逆進する直線がその小さな円に取り込まれつつ物語は減速し、その些か弛緩した状況を唐突に訪れた「現実」が裏切って幕が下りるという、折角の二重構造がどれほども有効活用されてはいないのです。この如何にも情けない「減速」は、その小さなはずの円が「案外大きかった」という物語的な事実に起因するのですが、私には其処がどう考えてみても欠陥としか思えないのです。また、少年を巡る「起点」が決して直線に変じることなく、あくまでもその周囲に円状の広がりを残すに止まるのは、其処に「現実」の壁が周到に配置されている故、八方に伸ばした短い線は、何れも「現実」の前に挫折し、結果として虚しい円を描くに止まるのです。確かに逆進する直線の存在は、その「現実の壁」を見事擦り抜けた「善意」のあることを裏付けるのですが、しかし、その事実が少しも劇的ではないという物語構造の欠陥が、既述の通り、直線と円の出会いですら、随分と鈍くしているのです。

 従って、この映画は専らその「小さな円」の内部に於ける、少年をその円の中心に於いた「現在的」な家族の物語であり、其処に在るものに何らかの普遍性をイメージすることによって単なる「小さな円」であることを漸く止める在り来たりな映画的装置、同時に存在する「逆進する直線」は観客が(「小さな円」の物語に)何らかイメージすることを手助けしこそすれ、それ自体がどれほどの機能を果たすわけでもありません。その「小さな円」の物語など今さら、そもそも「何が語られているか」というレベルに於いて、映画が何らか特権的であるなど幻想に過ぎません。映画が呈示する言語活動など、既に十分な反復を体験しているのです。此処に配置された「現実」は、確かに、其処が「ディズニーランド」であることを遠ざけてはいるものの、しかし、結果として其処に並ぶのは、今さら見せて貰うまでもない退屈な「アトラクション」ばかり、何かを思考したければ、わざわざ遊園地になど行かず、差し当たっては自室に籠もって読書でもします。

 公開初日の午後、主演の「子供」が人気なのか、あるいは「アカデミー賞確実」な映画は取り敢えず観るべきが相場なのか、各回とも立見の出る盛況ぶりでした。私が観た「新宿ピカデリー1」は最終上映回に限って「イブニング割引」ということで通常より500円安い1300円の入場料金、知らずに入ったものですから、随分と得をした気分になりました。名画座の2本立ての場合、最終上映回からの入場は予め1本のみの鑑賞を約束しているのと同じですから、その場合の入場料が割安になるのは理屈としてよく分かるのですが、今回のような場合の割引の根拠は今一つよく分かりません。週の半ばが割安になるのと同じ理屈で、集客に適さない環境を考慮してのことなら、年中客が入らないような不人気な映画は柔軟に割引に対応してもらいたいところです。
 余談ですが、この映画には『失われた週末』の引用がありました。個人的に愉しめたのは、その部分だけです。


Index