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15ミニッツ
監督: ジョン・ハーツフェルド
2001年5月26日(新宿東急)

 失われた地平線



 映画に紛れ込んだビデオカメラの映像が「現実的」に見える理由の一つは、それが既に一般家庭に広く普及し、その映像(の質感)が多くの人にとって日常的である故、一昔前の、マーチン・スコセッシなどが積極的に取り入れていた「8ミリフィルム」の映像と理屈は同じです。この映画でも同様の効果を企図してやはりビデオカメラの映像が挟み込まれているのですが、此処に於けるそれはかなり巧妙で、殺人の場面に於ける如何にも映画的な「省略」をも、ビデオカメラの映像が持つ「日常性」を逆手に取ることによって極めて「現実的」に処理されているのです。映画に於いて、直接的な描写を避けたい場合に映像に何らか「フィルター」を掛けるという方法がよく用いられるのですが、此処に於いては、それを今どきの家庭用ビデオカメラに備わっている「特殊効果」であると予め説明した上で用いている(ロシア人がショーウインドウを眺めながらそれらの機能を口に出して羅列する場面が予め用意されています)、つまり、その本来「非日常的」な映像効果ですらビデオカメラが持つ「日常性」に帰属するものとして示し、其処に(それなりの)「現実感」をもたらすことに成功しているのです。尤も、それがロシア人の台詞を借りて予め説明されているという如何にも不自然な構造からも知れるように、此処に於けるビデオカメラの応用は確信犯的な、むしろ「パロディー」とでも呼ぶべきもので、「これは偉大なるアメリカ映画だ!」というやはりロシア人の皮肉ともつかない台詞や、此処に何度も引用される「フランク・キャプラ」という固有名詞が示唆してもいるように、この映画の矛先は(一見してそうであるように)「テレビ」ばかりではなく「映画」にもまた、此処に於ける自称「映画監督」のロシア人の存在自体が既にイロニーと言えます。

 さて、近年の「映画」に纏る何らかが堂々揶揄されているだけあって、確かに、この映画はよく出来ています。場面の繋ぎや状況説明、例えば、空港でロシア人がインスタントカメラを弄んでいるのなど、後にそれがビデオカメラに発展することになる適当な説明になっていますし、彼らがテレビを観て「アメリカ的自由」を誤解する場面にしても、その後の彼らの行動とその動機といったこの映画全体に関わることが簡潔且つ明瞭に説明されています。物語前半の「刑事とテレビカメラ」と「犯罪者とビデオカメラ」のカットバックや追跡の場面に於ける「風景=街」との関わり、あるいは刑事が襲われる場面に於ける緊迫感を演出するクロースアップの多用等々と「よく出来ている」箇所を指摘すれば枚挙に遑がないのですが、しかし考えてみれば、何よりも私が指摘できるくらいですから、この程度の「技術」など物語映画に於いては当然のこと、あるいは、そんなことにすら足りない「何か」が此処で揶揄されていると理解すべきなのかも知れません。

 そうした状況説明等の「出来の良さ」に反して、如何にも余計な、「ハリウッド臭」とでも呼ぶべきが漂っている阿房らしい箇所も幾つかあって、例えば、ロバート・デ・ニーロが襲われる直前のシークエンス、其処に於ける「中断されたプロポーズ」など、後の展開と併せて「さあ、泣いて下さい」と言わんばかり、実際、そのシークエンスにはそれ以外の意味などまるで存在していないのですから、これはどう考えても余計です。また、ロバート・デ・ニーロの頭に(クッション越しに)拳銃が向けられてからの「ドタバタ」も余計、如何にもハリウッド的に捏造された「見せ場」です。あのまま大人しく撃たれていた方が、特にそれが後にビデオとして「反復」される場面に於いて、明らかに効果的、直前のシークエンスも含めて、そういった類の「演出」が如何にも余計なのは、それらがこの「物語」に従属しているのではなく、単に「大物俳優」の存在に従属している故、言わば「制度」の要請に過ぎないのです。

 総じて、近年のハリウッド式アクション映画としては非常に出来の良い作品だと思うのですが、しかし、やはりどう考えても「ロバート・デ・ニーロ」の存在が余計、別に悪い俳優だとは思わないのですが、彼が連れてくる「ハリウッド臭」がこの映画を些か退屈なものにしているのもまた事実です。結局、彼(もしくは彼に類する俳優)の存在が、この映画が制作されるための「条件」だったのではないかと、私が何を知っているわけでもないのですが、何となくそんな穿った見方をしたくもなります。

 公開から既に何週か経っている土曜日の午後、比較的大きな劇場の半分が埋まっていた程度、「大物俳優」が出演している割には客の入りは案外でした。この映画の表題はアンディ・ウォーホールの有名な言葉の引用なのですが、インターネットの時代、その言葉がますます現実味を帯びて、些か煩わしくも感じてしまいます。


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